構造変化2026-07-07 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

EVシフトで仕事はどう変わるか — トヨタ圏サプライヤーで働く人のキャリア防衛

この記事の要点

「ウチの主力、エンジン部品なんですよね。正直、この先どうなるんですかね」

東海の製造業の方と話していて、いちばん重い空気になるのがこの話題です。皆さま、この不安、言葉にできていますか? モヤモヤしたまま夜勤明けにスマホで「EV 部品 なくなる」と検索して、余計に不安になって閉じる——そんな消費の仕方をしているなら、今回の記事はあなたのために書きました。

先に僕のスタンスを言っておくと、EVシフトは恐怖の対象ではなく、地図の対象です。地震と違って、この地殻変動は進行方向がだいたい見えています。見えている変化は、備えられる変化です。今回は「何が減り、何が増え、自分はいつ・どう動くべきか」を、キャリアの目線で整理します。

0. 前提 — 変化のスピードを正しく見積もる

誤解がないように申し上げると、「明日ガソリン車が消える」わけではありません。世界の新車販売に占めるEV比率は上がり続けていますが、ハイブリッド(HV)を得意とするトヨタ圏では、エンジンを含むHVがまだ長く主力であり続けるシナリオが濃厚です。つまり時間はあります。

ただし、ここが重要なのですが、会社の投資判断はもっと早く動きます。製品が売れなくなってから工場を閉めるのではなく、10年後を見て今日の設備投資と採用を決める。つまり働く人に影響が出るのは「エンジン車が売れなくなった日」ではなく「会社がエンジン系への投資を止めた日」です。この時差を理解しておくことが、すべての出発点になります。

1. 何が減るのか — 部品点数の算数

よく引用される試算に、こういうものがあります。ガソリン車の部品点数は約3万点。このうちエンジン・トランスミッションなどの動力系が約1万点を占め、EVではこの大部分が不要になり、代わりにモーター・バッテリー・インバーターなどが加わる——という算数です(各種業界試算で広く言われている概数で、統計値ではありません)。

この算数をキャリアに翻訳すると、こうなります。影響が大きいのは、エンジン・変速機・排気系・燃料系の専用部品を主力とする工程。鋳造・鍛造・切削でエンジンブロックやミッションギアを作ってきたライン、排気系の溶接・組付けなどです。逆に、車体・内装・足回り・電装は車がEVになっても残ります。シートも、ブレーキも、ワイヤーハーネスも、EVに必要です。

つまり「自動車部品の仕事がなくなる」のではなく、「部品の中で濃淡が出る」が正確です。あなたの工程はどちら側か。まずここを冷静に見てください。

2. 何が増えるのか — 電動化の3点セットと、その周辺

増える側の主役は、モーター・バッテリー・インバーターの3点セットです。東海圏では大手部品メーカー各社が電動化部品の生産・開発に大きく投資しており、工場の新設・転換のニュースが続いています。ここで注目すべきは、増えるのは開発職だけではないということです。

電池の製造工程は、装置産業です。セルの製造・検査・組付けには大量のオペレーターと、設備を止めない保全技能者が必要になります。さらに電動化で車の電装比率が上がるほど、電気系の技能——PLC制御、配線、絶縁、検査——の価値が上がります。機械一筋だった方が電気の基礎(第二種電気工事士レベル)を足すだけで、行き先の選択肢は目に見えて広がります。

もう一つ、見落とされがちな増加側があります。品質保証と生産技術です。新しい部品を新しい工程で作るとき、品質の作り込みと工程設計の人材が必ず足りなくなる。自動車業界で品質管理の厳しさに鍛えられた経験は、この局面でそのまま換金されます。

3. 会社の見分け方 — 求人票より投資を見る

では、いま自分がいる会社、あるいは応募先の会社が「10年後も大丈夫側」かどうかは、どう見分けるか。僕がおすすめするのは、求人票ではなく会社の投資の向きを見ることです。具体的には3つ。

1つ目、製品構成。主力製品がエンジン専用部品なのか、EVでも使う部品なのか、電動化部品なのか。会社のウェブサイトの製品ページを見れば、だいたい分かります。2つ目、新工場・新ラインのニュース。社名で検索して、直近2〜3年の設備投資がどの製品に向いているかを見る。電動化・半導体関連に投資している会社は、転換を本気でやっています。3つ目、面接で聞く。「御社の電動化対応の計画を教えてください」は、現場系の面接で聞いていい質問です。むしろこれを聞ける応募者は「先を考えている人」として評価されます。答えが曖昧な会社は、それ自体が答えです。

4. 自分の動き方 — 3つの防衛ライン

ここまでを個人の打ち手に落とします。防衛ラインは3つあります。

第1ライン:社内で工程を移る。いまの会社が転換投資をしているなら、社内で電動化側・残る側の工程への異動を狙うのが最小コストです。転職ではなく異動で解決できるなら、それがいちばん安い。手を挙げる前に、社内公募や上長への意思表示のルートを確認してください。

第2ライン:スキルを足して転職の選択肢を作る。電気の基礎資格(第二種電気工事士)、保全の技能(機械保全技能士)、品質の知識(QC検定)。この辺りは働きながら取れて、EV時代の増える側に直結します。設計・制御系の年収相場の記事も参考にしてください。

第3ライン:第二の円へ移る。東海には自動車以外の成長円——半導体(四日市圏)と航空宇宙(愛知・岐阜)——があります。自動車の現場経験、特に品質と安全の規律は、これらの業界で通用します。詳しくは職域マップの記事に書きました。

大事なのは、第1〜第3のどれが正解かは人によって違うということです。年齢、家族、住宅ローン、通勤圏。守るべきものが違えば、正解も違う。だからこそ「一般論としてEVがどうか」ではなく「自分の座標でどうか」に落とす必要があります。

5. 時間軸 — いつ動くべきか

最後に時間軸です。率直に言うと、「危なくなってから動く」は最悪手です。所属工程の受注が細り、残業が減り、ラインが統合され始めてから動くと、同じ判断をした同僚たちと同じタイミングで同じ求人に殺到することになります。転職市場では、余裕のあるうちに動いた人から順に良い席に座ります。

逆に、いま所属している工程が「残る側・増える側」なら、慌てて動く必要はまったくありません。社内での経験の積み増しと資格取得に時間を使うほうが、期待値は高い。動くべきかどうかの判断こそが、この問題の本丸です。迷う方は、15問の適性診断で自分の現在地を確かめるところから始めてください。

6. よくある質問 — 3つだけ先回りして答えます

Q1「HVが残るなら、エンジンの仕事も安泰では?」——半分正しくて、半分危険です。HVにもエンジンは載るので、仕事は急には消えません。ただし「残る」と「増える」は違います。増えない市場では新規の設備投資と採用が細り、職場の年齢構成が上がり、ポストが詰まる。危機ではなく、じわじわ効く閉塞です。だからこそ余裕のあるうちの判断に意味があります。

Q2「電池工場はきついと聞きますが」——立ち上げ期の混沌は事実として書いた通りです。ただ「きつさ」の質は工程で全く違います。電極・セル工程はクリーン環境の装置オペレーションが中心で、昔ながらの重筋作業とは別物です。噂で判断せず、工場見学で自分の目で確かめてください。見学を断らない会社を選ぶこと自体が、良い会社のスクリーニングになります。

Q3「現場ではなく事務・調達系ですが、関係ありますか」——あります。部品構成が変わるということは、仕入先と原価構造が変わるということです。電動化部品の調達・生産管理・品質保証は、現場と同じく人が足りていません。「エンジン部品の調達を10年」やってきた方が電池材料の調達に移る、という動きはすでに始まっています。間接部門こそ、早めに社内の電動化プロジェクトに手を挙げる価値があります。

最後にもう一つだけ。この記事を読んで「まだ大丈夫そうだ」と感じた方も、年に1回、自分の工程の健康診断をおすすめします。見るのは3つ。自分の工程の受注の向き、会社の投資ニュース、そして求人市場での自分の値段(同職種の求人を10件眺めるだけでいい)。健康診断と同じで、異常がなければ安心料、異常があれば早期発見です。30分で終わります。手帳の年始のページに書いておいてください。

(結論)恐怖を地図に変える

まとめます。①EVシフトの影響は「エンジン系の専用部品」に集中し、車体・内装・電装は残る。②増えるのは電動化3点セットの製造・保全・品質、そして電気系技能。③会社は看板ではなく投資の向きで見分ける。④打ち手は「社内異動→スキル追加→第二の円」の3ライン。⑤余裕のあるうちに判断する。

変化の渦中にいると、不安は実際より大きく見えます。でも、40年以上日本一のものづくり圏が、作るものを変えながら続いていく——これが東海で起きていることの本質です。作るものが変わるなら、作る人の側も、半歩だけ先に変わればいい。

皆さんいかがでしたでしょうか。不安は検索ではなく、棚卸しで解消するものです。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. EVシフトでエンジン部品の仕事はなくなる?

記事によれば「自動車部品の仕事がなくなる」のではなく「部品の中で濃淡が出る」が正確です。影響が大きいのはエンジン・変速機・排気系・燃料系の専用部品を主力とする鋳造・鍛造・切削・溶接などの工程で、車体・内装・足回り・電装はEVになっても残ります。まず自分の工程がどちら側かを冷静に見ることが出発点だとしています。

Q. HVが残るならエンジンの仕事は安泰?

記事は半分正しく半分危険だとします。HVにもエンジンは載るため仕事は急に消えませんが、「残る」と「増える」は違います。増えない市場では新規の設備投資と採用が細り、職場の年齢構成が上がってポストが詰まる、危機ではなくじわじわ効く閉塞が起きるため、余裕のあるうちの判断に意味があると述べています。

Q. 事務・調達系でもEVシフトは関係ある?

関係あると記事は述べています。部品構成が変わることは仕入先と原価構造が変わることを意味し、電動化部品の調達・生産管理・品質保証は現場と同じく人が足りていません。エンジン部品の調達経験者が電池材料の調達へ移る動きはすでに始まっており、間接部門こそ早めに社内の電動化プロジェクトに手を挙げる価値があるとしています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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